ウォルター・ラング率いるトリオ・エルフのリリカルなサウンドとリザのヴェルヴェット・ヴォイスが絶妙にブレンドされたユーロ・テイストの逸品。
ユーロを代表する名門レーベルenjaから発売されたドイツの歌姫リザ・ヴァーラントの最新作。
ヴェルヴェットのようにしなやかなハニー・トーン・ヴォイスとリリカルで躍動感溢れるピアノ・トリオのコラボレーションから生まれた、コンテンポラリー・ジャズ・ヴォーカルの快作!
アルバム・タイトルとなっているR&Bのディーバ、リアーナのヒット曲「アンブレラ」。まったく装いを変え、ジャジーに生まれ変わったクール・カヴァーはヴォーカル・ファン必聴!ボブ・ディラン、サイモン&ガーファンクル、ビートルズなどのナイス・カヴァーも収録。人気ピアニスト、ウォルター・ラングの新世代ピアノ・トリオ、Trio ELFが強力サポートした話題作。
トリオ・エルフ+リザという組み合わせは彼女自身のセルフ・プロデュースによる前作『ハートに火をつけて』以来のことで、リザの世界像を構成する不可欠の要素としてトリオ・エルフが起用された――いや、ヴォーカル+歌伴ピアノというより、一つのバンドであるように感じられる。この印象は前作から持続しているが、『ハートに火をつけて』と『アンブレラ』の大きな違いは、前作ではアルバム収録曲9曲(+ボーナス・トラック)中に1曲しか収録されていなかったリザのオリジナル曲が、今回は14曲中8曲(ウォルター・ラング、スウェン・ファラーとの合作も含む)増えた点であろう。
彼女のオリジナル曲は、例えば家族(夫と息子)の存在から喚起される愛情や、取り返せない過去との惜別であったり、様々な屈託や感情を抱えながら風景の中に佇む「私」のスケッチであったりと、どこか私小説的な雰囲気も漂うが、いずれも魅力的なメロディを持った曲で、リザ・ヴァーラントのソングライターとしての力量を感じさせてくれる。リザは、ボブ・ディランやポール・サイモン、ジョニ・ミッチェル、レナード・コーエンなどの名前を、お気に入りの「詩人」として上げている。本作でも、そのディランの「シスター」(ディラン『欲望』所収の「オー、シスター」)やポール・サイモンの「私の兄弟」(サイモンとガーファンクル『水曜の朝、午前3時』)がカヴァーされている。今回のカヴァー・チューンの中でひときわ目を引かれるのは日本盤タイトルにもなった「アンブレラ」だろう。R&Bの黒いディーバ、リアーナの2007年のヒット曲がまったく装いの異なる歌に生まれ変わって、雨のモチーフで次のトラックのオリジナル曲「バーディ」につながっていく。ポール・ヤングが歌った「ラヴ・オヴ・ザ・コモン・ピープル」はリザがリアルタイムで親しんだポップスだ。
それにしても彼女が生まれた時にはビートルズもサイモン&ガーファンクルも解散していたわけでだから、彼らのポップス・チューンをリザが自分のレパートリーとして取り上げることの意味は、ノスタルジーとかオールディーズ趣味とはまったく無縁なものである。むしろ、それは往年のジャズ・シンガーがスタンダードのカタログの中から選んだ曲を自分の歌として歌いこんでいくのと似ているのかもしれない。その意味でも彼女はコンテンポラリーな「ジャズ・シンガー」に他ならないのだ。リザ・ヴァーラントは、これからも目が離せない存在だ。 ――― ライナーより抜粋